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東京高等裁判所 平成10年(ネ)3714号 判決

控訴人・附帯被控訴人(被告。以下「控訴人」という。) 株式会社アイ・エフ・イー

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 小島将利

同 浦田数利

同 伊関正孝

被控訴人・附帯控訴人(原告。以下「被控訴人」という。) 住友不動産株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 前田知克

同 幣原廣

同 小川原優之

同 神田安積

同 緑川由香

主文

一  本件控訴に基づき、原判決主文第一項から第三項までを次のとおり変更する。

1  控訴人が被控訴人に賃貸している原判決別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成八年一〇月一日から月額金一二〇八万五〇〇〇円であることを確認する。

2  控訴人は、被控訴人に対し、金二四二四万円及びうち金一五一万五〇〇〇円に対する平成八年九月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年一〇月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年一一月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年一二月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する平成九年一月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年二月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年三月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年四月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年五月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年六月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年七月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年八月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年九月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年一〇月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年一一月末日から、うち金一五一万五〇〇〇円に対する同年一二月末日から、各支払済みまで年一割の割合による金員を支払え。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審ともこれを一〇分し、その七を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

四  この判決の第一項の2は、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人の控訴の趣旨

(一)  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(二)  右取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

2  被控訴人の附帯控訴の趣旨

(一)  原判決を次のとおり変更する。

(二)  控訴人が被控訴人に賃貸している原判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の賃料は、平成八年九月から月額七七三万九九七七円であることを確認する。

(三)  被控訴人は、控訴人に対し、金九九六二万〇三九一円及びうち金五八六万〇〇二三円に対する平成八年九月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年一〇月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年一一月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年一二月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する平成九年一月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年二月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年三月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年四月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年五月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年六月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年七月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年八月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年九月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年一〇月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年一一月末日から、うち金五八六万〇〇二三円に対する同年一二月末日から、各支払済みまで年一割の割合による金員を支払え。

(四)  右(三)について仮執行宣言

二  本件訴訟の概要及び経過

本件は、賃貸ビル(事務所用)の賃貸事業受託方式によるサブリース(転貸権付賃貸借)について、賃借人である被控訴人が賃貸人である控訴人に対し、事情変更の原則及び借地借家法三二条の規定に基づき、賃料の減額及び超過支払額の返還を求めた事案である。

被控訴人の請求は前記附帯控訴の趣旨の(二)、(三)に記載のとおりであるところ、原審裁判所は、被控訴人の請求を、本件建物の賃料が平成八年一〇月以降月額一一〇七万六五〇〇円であることを確認し、従前賃料月額一三六〇万円と右減額後の賃料月額一一〇七万六五〇〇円との差額である二五二万三五〇〇円の一六か月分(平成八年一〇月分から平成一〇年一月分まで)四〇三七万六〇〇〇円と、一か月分の差額二五二万三五〇〇円についてその支払期である平成八年九月末日以降平成九年一二月末日までの各月末日以降の年一割の利息の支払を求める限度で認容し、その他の請求を棄却した。

そこで、控訴人は、これを不服として控訴し、原判決中の控訴人敗訴部分を取り消し、被控訴人の請求を全面的に棄却するよう求めた。これに対し、被控訴人も附帯控訴し、原判決を変更して、被控訴人の請求を全面的に認容するよう求めた。

三  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実

1  次の2のように付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄三「争いのない事実及び後記各証拠により容易に認定できる事実」(原判決五頁九行目から一四頁一行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  原判決に対する付加、訂正

(一)  原判決六頁一行目の「計画が立て」を「計画を立て」に改め、同行の「被告を」の次に「資本金一五〇〇万円で」を加える。

(二)  同一〇頁一一、一二行目の「支払わなかった。」の次に「したがって、被控訴人は、本件契約で合意された賃料を引渡し当初から一度も支払わなかったことになる。」を加える。

(三)  同一一頁三行目の次に改行して次の説示を加える。

「 平成五年度(平成五年四月から平成六年三月まで。以下「年度」という場合には、当該年の四月から翌年三月までを指すものとする。)において被控訴人が転借人から収受した賃料額は年額一億七九三五万八〇〇〇円(平均月額一四九四万六五〇〇円)、平成六年度におけるそれは年額一億七二六七万六〇〇〇円(平均月額一四三八万九六六六円)であった。[甲一五の1、2]」

(四)  同一三頁八行目の次に改行して次の説示を加える。

「 平成七年度において被控訴人が転借人から収受した賃料額は年額一億三六六八万七九〇二円(平均月額一一三九万〇六五八円)、平成八年度におけるそれは年額一億二三一一万〇八九二円(平均月額一〇二五万九二四一円)、平成九年度におけるそれは年額一億二六三一万四八〇六円(平均月額一〇五二万六二三三円)、平成一〇年度(ただし、同年一二月まで)におけるそれの平均月額は一二二一万一〇〇〇円であった。[甲一五の1、2]」

(五)  同一三頁一〇、一一行目の「平成八年九月から」を「平成八年九月分から」に改める。

(六)  同一四頁一行目の次に改行して次の説示を加える。

「6 控訴人の本件事業に関する収支を概観すると次のとおりとなる。

まず、収入のうちの借入れについては、控訴人は平成五年一二月二九日に株式会社あさひ銀行から賃貸ビル建築資金として二四億円を借り入れた。利息は年四・五パーセント、返済期間三〇年、毎月の元利金返済額は一二一六万〇四四七円であった。そして、平成七年二月の段階においても、毎月の元利金返済額、利率は同一であった。もっとも、その後平成一〇年七月からは、毎月の元利金返済額が一〇三五万一四二一円、利率は年三・一二五パーセントに、平成一〇年一一月からは、毎月の元利金返済額が一〇二一万〇〇八五円、利率が年三・〇〇〇パーセントになった(なお、乙三一の2の平成一〇年七月以降の返済の前にも、毎月の元利返済額や利率が当初のものよりも減少している可能性があるが、この点を明確に認めるに足りる証拠はない。)。これに対し、控訴人は、建築工事代、旧建物取壊工事、関連設備工事、地質調査費、コンサルタント費、設計・監理費用等の建築工事関係費用及び不動産取得税として合計約二四億四一三七万円を支出し、その他、控訴人代表者らは、そのころ相続税として合計約四億九九九一万円を支払った。〈証拠省略〉」

四  当事者の主張

1  次の2、3のように当審における当事者双方の主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄四の「当事者の主張」(原判決一四頁三行目から一五頁六行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  当審における控訴人の主張

C鑑定による適正実質賃料額を前提に負の差額配分を行うとしても、その対象となる賃料は原契約(本件契約)による合意賃料月額二四〇八万六六〇〇円とすべきであり、配分割合についても、被控訴人の信義則違反や禁反言の法理違反、宅建業者としての説明義務違反、控訴人と被控訴人との間の社会的・経済的能力の格差と企業責任等の事情を考慮すると、控訴人が差額の一部を負担するとするのは不当である。

3  当審における被控訴人の主張

本件減額合意においては、①月額賃料を、平成四年一二月三一日まで一三三九万一一二七円とし、平成五年一月一日より一三六〇万円として、平成八年三月三一日まで据え置く、②平成八年四月以降の賃料については、テナント転貸状況を勘案し、双方協議の上決定するとされている。したがって、平成八年四月以降の賃料は②により双方協議の上で決定するということになっているわけで、それ以降の賃料は全く定まっていない。したがって、本件は、あくまで平成八年九月の時点での正常実質賃料の確定を求めているものであり、それこそが妥当とされるべきである。

五  当裁判所の判断

1  当裁判所は、平成八年九月時点における本件建物の継続適正賃料は月額一二〇八万五〇〇〇円(消費税別)と認めるのが相当と判断する。その理由は、次の2のように原判決に対し訂正、削除をし、3、4のように当審における当事者双方の主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄五「当裁判所の判断」(原判決一五頁八行目から二九頁六行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する。

2  原判決に対する訂正、削除

(一)  原判決一六頁一〇行目の「不動産業を営む会社であり」を「不動産業を営む大手企業であり」に、一一、一二行目の「設立された会社であること」を「設立された会社であり、控訴人代表者が経営するいわゆる個人会社と評価されること」にそれぞれ改める。

(二)  同一六頁末行の「賃料保証及び増額保証の合意は」から一七頁三行目の「認められないというべきである」までを「本件契約に借地借家法三二条の規定の適用がある以上、右の合意があっても、建物の賃借人が借賃減額請求権の行使をすることができることは、同条一項の規定の文言に照らして明らかであり(もっとも、本件契約が右の合意を含むサブリース契約であることは、適正賃料額の算定に当たって考慮すべき一つの事情になるということができる。)、その他の事情も、本件において同条による減額請求を禁反言の原則又は信義則により否定するほどのものとはいえない」に改め、一七頁四行目を削る。

(三)  同一八頁一一行目の「純賃料額」を「合意賃料額に敷金運用益を加算した月額一六〇九万七〇〇〇円」に改め、末行の「純賃料額に必要経費を加算して得た」を削る。

(四)  同二二頁七、八行目の「サブリース事業をなす会社」を「サブリース事業をする大手企業」に、八、九行目の「本件建物の管理のために設立された会社」を「本件建物の管理のために設立された個人企業」にそれぞれ改める。

(五)  同二三頁八、九行目の「強調していたものであり」から一二行目の「いうべきである。」までを「強調していたものである。被控訴人においては、バブル経済の崩壊のような経済情勢の激変を現実的なものとして認識してはいなかったものと思われるが、バブル経済の崩壊も文言上は本件契約第6条にいう「経済情勢の激変」に当たると解されるから、契約の文言上あるいは形式的には、このような場合にも改訂率(値上げの率)を変更することで対処するとされていたということができる。」に改める。

(六)  同二三頁末行から二九頁一行目までを次のとおり改める。

「(3) そもそも、被控訴人は、前記のとおり、本件建物のサブリースについては遅れて参入し、既に控訴人に対しサブリースを申し込んでいた同業他社を上回る条件を提示して本件契約を獲得したものであるから、本件契約における賃料額が高めに設定されたとしても、それは競争原理に基づくものであり、契約自由の原則の当然の結果であったと評しうる側面があるといえる。

しかるに、前記三の事実に証拠[乙一四、二二]を併せれば、被控訴人は、本件契約による合意賃料の支払を一度も履行することなく、当初から本件契約を全く無視した額の賃料の支払をし、これに対し、控訴人が少なくとも協議中は約定の賃料を支払ってほしい旨要請したにもかかわらず、頑として聞き入れず、自己都合による計算に基づく賃料(その支払額は月額では一三三九万一一二七円で、この支払賃料額は約定賃料額の五五・六パーセントに過ぎない。)を一方的に支払い続けたこと、控訴人はこのような被控訴人の態度に憤りを抱いたが、被控訴人側の内部事情にも理解を示し、円満な契約関係の構築を希望し、また、今後賃料は今回合意した賃料額よりも下がることはないなどとの被控訴人担当者の口頭での説明を信頼して、六か月にわたる交渉の結果、借入金の返済計画等の内部事情も種々勘案し、本件減額合意の金額であれば、右返済もなんとか維持できると判断し、前記のとおり、賃料の大幅な減額を敷金の積増しで補完することとして、平成五年六月一八日、やむを得ず賃料月額を当初の合意賃料額から約四三パーセント余り減額した一三六〇万円(ただし、平成五年一月一日から平成八年三月三一日まで)とする本件減額合意をしたこと、ところが、平成八年七月には、再び被控訴人から控訴人に対し賃料減額の要請があったので、今度は控訴人はこれを拒否したところ、本件減額合意において被控訴人が平成八年七月三一日支払う旨約束していた敷金の積増分の九〇〇〇万円を支払わなかったこと(この敷金の積増分については、前記のとおり、控訴人の提訴により平成八年一二月二五日訴訟上の和解が成立した。)、以上の事実が認められる。この事実に照らすと、控訴人は、本件の賃料額の減額の点について、継続的契約の当事者として信義則に従った、かつ、合理的な態度でこれに当たったのに対し、被控訴人は、賃料の減額を是非実現したい局面では、二度までも契約を無視した実力行使ともいうべき手段に出たもので、その対応は、明確な契約違反であるとともに、大手企業の優位な立場を背景にした信義則に悖る行為であったとの評価を免れない。

(4) そこで次に、本件減額合意による賃料額の水準についてみると、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人による本件建物の賃借及び賃貸による収支は、敷金の運用益を考慮すれば、被控訴人の試算で、平成五年度が約六四四万円の赤字、平成六年度が約一七三五万円の赤字、平成七年度が約四八六三万円の赤字、平成八年度が約六一〇二万円の赤字、平成九年度が六〇六三万円の赤字、平成一〇年度(ただし、平成一〇年一二月まで)が約三一六八万円の赤字(これを年間の赤字に換算すると約四二二四万円の赤字となる。)となること、しかし他方、これを賃料額だけで比較すると、平成五年度が約一六一五万円の黒字、平成六年度が約九四七万円の黒字、平成七年度が約二六五一万円の赤字、平成八年度が四〇〇八万円の赤字、平成九年度が約三六八八万円の赤字、平成一〇年度(ただし、平成一〇年一二月まで)が約一二五〇万円の赤字であることが認められる。このように、敷金の運用益をも含めた実質の賃料額で比較すると、本件減額合意後の賃料額もやや高めであったともいえるが、賃料額だけで比較すると、減額賃料は、控訴人の柔軟な対応により従前の合意賃料よりも約四三パーセント余りも大幅に減額した額で合意されたものであり、これにより被控訴人においては平成五年度、六年度には相当額の黒字を出し、平成七年度から九年度までは相当額の赤字になるが、平成一〇年度には年度換算で赤字が約一六六六万円に縮小している事情があるから、賃料保証をその重要な特徴とするサブリース契約である本件契約の下で平成五年六月にされた本件減額合意は、被控訴人側の事情に十分配慮した内容であったということができる。

(5) これに対し、前記認定のとおり、控訴人は本件建物建築のため二四億円を銀行から借り入れ、賃料減額の意思表示がされた平成八年九月当時、一か月について一二一六万円余ないしそれに近い金額の返済をしていたところ、建築費用の見積り及び同費用の借入れに当たっては、本件契約における合意賃料額が重要な前提事項とされていたことは見やすい道理であり、〈証拠省略〉によれば、本件契約直後被控訴人が一方的に賃料を減額したことから、借入金の償還条件の設定に困難を来たし、結果的に金利負担がかさむ結果になったこと、本件減額合意においても、同合意における賃料額を最低ラインとして収支計算をやり直し、何とか見通しが立ったことから、前記認定のように大胆かつ柔軟な譲歩をすることによって賃貸借関係の円滑な継続を図ったことが認められる。したがって、本件においてさらに大幅に賃料を減額することは、控訴人の収支のバランスを失わせ、控訴人の存立を危うくする危険がある。

そこで、これらの事情も、本件の賃料の改定に当たり勘案すべきである。

(6) ところで、本件減額合意の第5項に、被控訴人は本件減額合意に定める賃料額が本件契約に定める賃料額(月額二四〇八万六六〇〇円)を早期に上回るよう、転貸条件の向上に誠意をもって努力するとされていること、前記認定の本件減額交渉の際の被控訴人担当者の言動、本件減額合意当時は、バブル経済の崩壊に伴うオフィス賃料額が既に大幅な下落状況にあったことなどからみて、その当時には再度の減額は現実的なものとしては想定されていなかったものと推認することができる。そして、当時の状況下においては本件減額合意は合理的な妥協であったといえるが、前示のとおり、平成七年度以降においては、敷金の運用益を考慮しない場合でも、被控訴人の収支が赤字の状態になっていることは、本件のようなオフィス賃貸物件が、本件減額合意以降さらに一段と厳しい経済状況下に置かれるに至っていることを示しているということができる。

したがって、これらの事情も、本件の賃料改定に当たり考慮すべきである。

(7) 以上検討したところに基づいて考える。

前記のとおり、C鑑定は、サブリースという本件における個別的事情を捨象して、本件建物の通常の賃貸借における継続適正賃料額を求めたものであり、その月額八五五万三〇〇〇円は、差額配分法による試算額から敷金の運用益を控除した額と同額であり、それは本件建物の経済的価値に純粋に対応した賃料ということができる。

そこで、本件では、右鑑定による八五五万三〇〇〇円と合意支払賃料額である一三六〇万円との差額五〇四万七〇〇〇円について、前記(1)ないし(6)の事情に基づき調整するのが相当であるところ、本件が賃料保証を重要な特徴とするサブリース契約であること、控訴人は、本件契約で合意した賃料を一度も受領することなく、被控訴人側の事情を勘案して四三パーセント余りの賃料減額を内容とする本件減額合意をし、大きな負担をしていること、その際及びその後の被控訴人の対応は信義則に悖るものであったのに対し、控訴人の対応は信義則に則したものであったこと、本件減額合意における賃料額をさらに大幅に減額することは、控訴人の経済状況を窮地に追い込む危険性があること、本件減額合意においては、これ以上の賃料減額は現実的には想定されておらず、被控訴人は当初賃料を早期に上回るよう努力するとされていることなどを考慮すべきである。しかし、他方では、本件減額合意における賃料額では、同合意以降も引き続いた貸事務所の賃料の下落、その他の経済事情の悪化により、平成八年九月以降、被控訴人に継続して相当額の赤字が出る状況であることも、考慮しなければならない。そこでこれらの事情を総合すると、右の差額に係る不利益を被控訴人が七、控訴人が三の割合で負担するのが相当である。そうすると、右八五五万三〇〇〇円に、右差額の七割に相当する三五三万二〇〇〇円(一〇〇〇円未満切り捨て)を加算した一二〇八万五〇〇〇円をもって適正な月額賃料と認めるのが相当である。」

(七)  同二九頁二、三行目の「一一〇七万六五〇〇円」を「一二〇八万五〇〇〇円」に改める。

3  当審における控訴人の主張について

前示のとおり、本件においては、本件減額合意における賃料額がその後の貸事務所の賃料の下落、その他の経済事情の変動により、減額請求時点における本件減額合意による賃料額が不相当となったものと認められるから、差額配分法の適用に当たっては、右合意賃料額を前提とすべきである。

また、控訴人が主張するような諸点をも含めて検討すると、前示のとおり、右の差額に係る不利益は、被控訴人が七、控訴人が三の割合で負担すべきものとするのが相当である。

4  当審における被控訴人の主張について

本件減額合意の第4項においては、平成八年三月三一日より後の賃料については、被控訴人がテナントに転貸している状況を勘案し、控訴人と被控訴人とが協議の上決定するとされているところ、この契約条項は、前記認定の本件契約の性質・内容、本件減額合意がされるに至った経過に照らせば、平成八年四月一日以降の賃料については転貸状況を勘案しながら話合いをする旨定めたものに過ぎず、被控訴人の主張のように、同日以降賃料額の定めがなくなってしまうことを前提に、双方協議の上これを決定する旨を定めたものではないというべきである。

六  結論

以上の次第で、原判決は一部不当であるから、本件控訴に基づき原判決を右の趣旨に従って変更し、本件附帯控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原健三郎 裁判官 岩田好二 橋本昌純)

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